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管理人ちはやの気侭日記。 禁・海賊行為。
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リハビリ短編。
今更ながらのタイバニ、ツンバニとおじさん。

 カタカタカタカタと、淀みない音を響かせているのは、横に座る男の、同性のものとは思えない白さと細さを誇る指先である。時折、その白い指先で、同じように繊細な眼鏡のフレームの位置を直す以外、彼の手元が細やかな演奏を止めることはなかった。
 大きなガラス張りの窓から惜しみなく差し込む日差しに欠伸を噛み殺しつつ、そんな同僚の横顔を盗み見る。外面ばかり美しく笑顔を振り撒いて、裏で仕事上の相棒である此方に高慢で捻くれた態度を取るこの男が、その実、随分と真面目な性根を持っていると気付くことは容易かった。トップを走ることを神から認められているかのような、外見と能力。自分がそれを持っていることを、これまた実に優秀な頭脳でもって、青年は自覚している。その上、持って生まれたダイヤの原石を磨き上げることに余念がないのだ。自分が努力すれば成し遂げられる、ということを前提とした、完璧主義。実ることを微塵も疑わない故の最大限の努力は、きっと今まで結果を伴わなかったことがないのだろう。尤も、今、その興味と情熱と努力の全ては仕事にのみ向けられているようだが。こういう奴を仕事馬鹿と言うのだろうか。自分の周囲には余り見なかった部類の人間だ、と、溜息を隠して頭上のハンチングを被り直す。仕事上とはいえ、上の勝手な意向とはいえ、「相棒」の位置に据えられてしまった以上、現状は些か、否、非常に、良好とは言えないものだった。そう思っているのがどうやら自分だけだというのも、頂けない。せめて会話くらいまともに出来るべきだ、と顎に手を当てたところで、思考のBGMと化していたタイピングの音が止む。「お、」と思わず漏れた声と同時に、今度は堂々と隣を窺えば、緑色の瞳と克ち合った。あからさまな溜息に眉が寄る。
 
「何だよ、俺が何かしたか?」
 
「何もしていないのが問題なんですよ、」
 
そんな事も分からないんですか?やれやれと首を振る動作は、見事に芝居がかっていた。かつてこの男ほど人の神経を逆撫ですることの上手い人間を見たことがあっただろうか、そう自問したくなる程度には、毎回々々、青年と会話をする度に自分は眉を寄せている気がする。「これだからおじさんは」と口を開く度に言われている台詞はしかし、最早お決まりではあっても的を射てはいないだろうと思えた。お互いの噛み合わなさは、年齢のせいばかりではないだろう。問題点は、もっと根本的な、考え方の違いだ。それも、仕事の相方である此方にも最低限しか接触しない程自身の周りに興味を抱かない男が、唯一執着する、ヒーローという仕事についての。
 パソコン画面を見詰めていて肩が凝ったのか、ぐるりと首を回した男は眼鏡を取って眉間に手を当てている。そうした何気ない仕草が、いつも完璧で作り物めいた青年に人間味を与えるのだ。それがいけない。
 
「お前も少しくらい休憩すれば?」
 
「貴方は休憩のし過ぎです」
 
 ぎしりと椅子を鳴らして、此方が出社してから今迄、一度も上げられなかった腰が持ち上がる。「お、おじさんの言う事聞く気になったのか」、下から覗き込んで笑えば、返って来るのは口端を持ち上げた嫌味な笑みだ。いつかメディアに流出してしまえば良いと思う、ちょっとばかり本気で。「貴方と違って、一通りの仕事は終了しましたから」、言葉と一緒に、デスクの上のパソコンがメールの受信を告げる電子音を上げる。開いてみれば、それは隣のデスクからだった。メールに添付されているのは、勿論、タイガー&バーナビーの双方が目を通さなければならない案件である。「えええええ、仕事増やすなよ、バニー」嘆きに返って来るのは、ファンの子が見れば百年の恋も冷めるであろう、冷ややかな眼差しだ。
 
「バーナビーだと何度言えば分るんですか。始末書ばかりのおじさんと違って、僕が仕事を増やす訳ないでしょう、歴とした今日分の仕事ですよ」
 
 残業にならないよう、精々頑張って下さい。まあ、無理だと思いますけど。優しさの滑落している声音が頭上から降って来て、肩が落ちる。壁の時計を見上げれば、もうすぐ昼の休憩時間だった。背後を通り過ぎてドアへと向かう青年は、このまま休憩に入る気なのだろう。デスク上の書類の山と、今しがたメールで送られてきたファイルと、時計の針とを見比べる。そうして最後に目を遣った小憎たらしい後輩は、既にドアノブに手を掛けていた。その背に「なあバニー」と声を掛ければ、何ですか、と面倒臭そうな顔が此方を向く。
 
「昼飯、おじさんに奢られてみない」
 
 ぐ、と、形の良い眉が眉間に皺をつくった。一度引き結ばれた形の良い唇が、一寸も躊躇うことなく開かれる。
 
「幸い、貴方に集らなければいけない程、お金に困ってはいませんから」
 
 では、失礼します。音を立ててドアが閉まると同時に、ばたりとデスクへ突っ伏す。その拍子にひらひらと書類が何枚か舞ったが、そんなものはどうでも良かった。八割方断られるだろうと予想はしていたのだ。これは、相手の毒舌を計算に入れることを失念していた、自分のミスである。
 
「ッとに、可愛くねぇー」
 
Constant dripping wears away the stone (?)
雨垂れ石を穿つ(?)
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