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見上げる青空より血色の薔薇を
その甘い香に私は窒息する
抜け殻の上を
猫が歩いた
数十年に渡る戦乱の後。
刀よりも銭が物言うようになった時代。
そんなある国の話をしよう。
何時もの様に、街を歩いて行く。
目的は無く、する事もなく、ついでに言えば銭もない。
この時世、戦は終わり国々の再建も滞りなく、街に並ぶは商人(あきんど)の店々。
人々の顔には笑顔。少しばかり憎らしい程に。
大戦が終わり戦場が消え、人々は人斬りを恐れた。
侍は廃業した。
まぁつまり、今の自分は立派に失業者な訳である。
巻き割りやら下働きやらしてその日の糧を何とか得ている、そんな状況だった。
さて、本日は晴天。何をしようかとどうにも悲しい事をつらつら考え歩を進める。
「ちょいと、ちょいとそこの色男(いろお)さん」
戦後一番栄えている国、都の大通り。そんな風に呼び止められると思う程自惚れてもいないので、気にも留めず。
すると、背後から肩を掴まれた。
「っ」
条件反射で左手が腰に行くが、其処に在るべき物は無い。
「ちょいと。花街に置いたら売れっ子間違いなさそうなお兄さん」
振り返ったら、少し上に満面の笑みがあった。
「お侍さんでげしょ」
見るからに軽薄そうな笑み。
第一印象からして、嫌いだ。
「侍なぞこの世に残っていないだろうさ」
我ながら冷ややかな声が口を付いて出る。
「では、今一度侍に成ってみやしやせんか?」
情けないことに、一瞬思考が停止した。
「・・・何を馬鹿げたことを」
「馬鹿げてなんかいやせんよ」
にこにこにこにこ。笑いながらぬけぬけと。
気に喰わない。
「まぁ、こんな所ではなんですし」
くいくい。と親指を立て、一軒の店を指す。
見るからに廃れた茶屋だった。
繰り返すようだが、暇である。何分失業中故。